【医学部受験】小論文完全ガイド|小論文典型出題パターン4つと初めて書く人向け対策法
医学部受験対策では後回しにされがちな「小論文」。しかし英語や数学といった教科の勉強とはまったく異なる取り組みが必要な上、合格レベルの小論文が書けるようになるには時間もかかります。私立大学ではほぼすべてで・国公立大後期日程でも多くの大学で小論文が課されることを考えても、早めに手を打っておくことがおすすめです。
今回は医学部合格者輩出実績もある元予備校校舎長が、医学部に合格するための小論文対策について、特徴や傾向、書き方のコツ、練習方法などまとめてお伝えしましょう。
目次
そもそもなぜ医学部は小論文を課すことが多いのか?
医学部に合格するのは楽ではありません。高い偏差値の受験生ばかりが受ける教科試験に加え、面接や小論文も課されることが多いからです。教科の勉強だけでも手一杯なのに、さらに対策が必要なんて!
でもそもそも、なぜ医学部では小論文や面接を課すのでしょうか?
医学部受験生が見られているのは「医師の資質」
医師は人々の健康や命に直結する職業です。医師には専門的で高度な医療知識のほか、高度な倫理観や人間性、責任感も欠かせません。大学入試共通テストや2次試験・大学個別試験といったいわゆる「ペーパーテスト」では学力は測ることができますが、受験生の価値観や考え方、経験、医師を志す理由などはうかがい知ることができませんね。こうした「ペーパーテスト」ではわからない要素を見極める方法として、小論文や面接が採用されているのです。
昨今、医療界に対する社会の目は厳しさを増しています。医療ミスやハラスメント、倫理にもとる行動などは厳しく追求される時代です。そんな時代において、大学側は受験生が医師となる責任感の自覚を持っているか、資質が医師にふさわしいかどうかを見極めようとしているのです。
「医師の資質」とは?
医師にふさわしい資質とは、大きく2つにわけられます。
1つ目は「バランスのとれた人格」を持っていることです。医師はさまざまな患者さんと日々接しますし、看護師や薬剤師をはじめとした多数の医療スタッフとも連携をとらないといけません。人の命や思いを尊重し、気持ちよくコミュニケーションが取れる人格は医師にとってとても重要な要素なのです。
2つ目は「責任感」を持っていることです。命を預かる医師という仕事には、職業的にも社会的にも高い責任感が求められます。自分の好みで治療をされたり、医療ミスがあっても隠ぺいしたりするような医者がいては困りますよね。自分の仕事が持つ意味を理解し、責任をまっとうできる人が医師に向いています。
面接や小論文は、こうした資質を見るために行われているのです。
医学部小論文の出題傾向は4パターン(出題例つき)
ではいよいよ、医学部小論文の出題傾向を見ていきましょう。医学部で出される小論文は、およそ4つのパターンに分けられます。
タイプ① 課題文を読解して論じる
課題文が与えられ、読解の上でテーマについて論じなさいという形式です。論じる際は『見解を述べる』場合と『要約・説明を求める』場合とに分かれます。
課題文のテーマは医療に関するものもありますが、幅広い教養をみる目的で、自然科学や現代社会論、人文科学の分野まで多彩に扱われます。
● 出題例
大学名 | 出題年度 | 字数 | 出題内容 |
---|---|---|---|
岩手医科大学 | 2018年度 | 600字 | 石川九揚講演録 『縦に書け、縦に考えよ―縦と横の文化学―』より 「縦」と「横」のイメージに関する考えを自由に述べる。 |
自治医科大学 | 2017年度 | 400~500字 | 寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第四巻 小宮豊隆編』を読み要約。内容について賛否を書いた上で「科学論文」以外の文章についての考えを書く。 |
東京医科大学 | 2019年度 | 400~600字 | 子どもと科学者のものの見方について書かれた文章を読み、子どもがある因果関係から他の事象も因果関係に結び付けてしまうことの誤り等を理解して説明する。 |
タイプ② 図や表を分析して論じる
2つ目のタイプは図や表が与えられ、それを見た上で自分の考えを論じる問題です。データとして用いられるのは統計資料が多く、人口動態や高齢化、喫煙と病気の関連性、感染症による死亡率とったテーマが多く扱われています。
図や表の読み取りは慣れていないと難しく感じるものです。余裕がある人は、厚生労働統計協会という団体が毎年発行している『図説 国民衛生の動向』をチェックしてみてください。医療や健康に関する数多くの統計や図表を閲覧でき、良い練習になります。
一部の大学では絵や写真が与えられることもあります。いずれも他のテーマと組み合わされて出されることが多い点に注意しましょう。
● 出題例
大学名 | 出題年度 | 字数 | 出題内容 |
---|---|---|---|
日本医科大学 | 2017年度 | 600字 | 図表が与えられ、人口減少にどう対処すべきかを論じる。 |
順天堂大学 | 2019年度 | 800字 | 3歳で聴力を失った井上孝治が撮影した写真を見て、考えを述べる。 |
産業医科大学 | 2019年度 | 指示なし | 戸田山和久『「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス』より、「喫煙率」と「肺がん発生率」のデータ間に相関関係がある場合、両者の因果関係の有無を検討する際に注意すべき点について考察する。 |
タイプ③ 与えられたテーマについて論じる
このタイプは課題文や図など資料はあたえられず、テーマのみが指示されます。そのテーマを見て自分自身の見解を述べるという形式です。医療分野のテーマのほか、社会問題や時事問題、文化、また受験生の将来像を尋ねる場合もあります。
課題文がないため、テーマに関する知識を持っていないと何も書けないという状況に陥ってしまいがちなことに注意が必要。このタイプの小論文がでる大学を志望する場合は、日頃から幅広いテーマについて興味を持つように努力しておくと良いでしょう。
● 出題例
大学名 | 出題年度 | 字数 | 出題内容 |
---|---|---|---|
東北医科薬科大学 | 2018年度 | 600字 | 犯罪被害者、加害者の人権保護について自分の意見を述べる。 |
国際医療福祉大学 | 2017年度 | 800字 | 英国のEU離脱、トランプ氏のTPP見直しなど、自由貿易と保護貿易に対する議論が活発だ。第二次世界大戦以降のIMF/GATT体制の転機かもしれない。自国の立場で自由貿易と保護貿易について論じる。 |
杏林大学 | 2018年度 | 800字 | ことわざ「さわらぬ神に祟りなし」について論じる。 |
タイプ④ 英文問題が与えられる
課題文が英語という、まるで英語の読解問題のような小論文は国公立大学でよく見られる形式です。医師は大量の英語論文を読む必要があり、英文読解力を測ろうという意図もあるといわれています。
テーマとしては医療分野のほか、自然科学、人文科学、社会科学など多岐に渡りますが、いずれも論文誌に掲載された本物を引用しており専門度は高め。大量の注釈と見比べながら読み切る英語力が欠かせません。
● 出題例
大学名 | 出題年度 | 字数 | 出題内容 |
---|---|---|---|
群馬大学 | 2021年度 | 300~400字/他に設問あり | 問題用紙5ページ半に渡る英文を読み、設問に答える。論述問題は「感染症予防対策として強制的ワクチン接種のほか、強制的な検疫や隔離、移動制限といった基本的人権を侵害する対策が行われることがある」ことについて、意見を述べる。 |
三重大学 | 2019年度 | 500字 | スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんのスピーチ文を読み、賛同か反対かを明らかにし、医師として環境問題にどのように取り組むか述べる。 |
富山大学 | 2020年度 | 400字 | 医学に関するAIについて書かれた英文を読み、要約した上で医療現場におけるAIについて自分の考えを述べる。 |
医学部小論文の学習対策|いつごろ、何をすべき?
医学部小論文の出題傾向が理解できたところで、具体的な対策方法について考えていきましょう。みなさんが小論文にだけ時間を割くことはできないということは承知しています。
現役生でも無理なく取り組める対策とスケジュールをまとめましたので、ヒントにしてみてくださいね。
1.過去問研究をする
【おすすめ時期】高3(受験学年)夏休み
まずは「敵(志望大学の出題傾向)を良く知ること」から始めましょう。夏休みは現役生でも比較的時間を取りやすく、また志望系統も固まってくる時期。ここで過去問を見てみることをおすすめします。
この段階ではまだ解けなくて(書けなくて)大丈夫です。自分が志望する大学、併願候補の大学が、どんな傾向の問題を・どれくらいの分量で出題しているのかを把握してください。過去3年分ほどさかのぼると、およその傾向がつかめます。
近年は新型コロナウィルスの影響で小論文のテーマも変化しつつあります。社会情勢と絡めてチェックする視点も大切ですよ。
2.基本の書き方を学ぶ
【おすすめ時期】夏休み明け~秋
小論文は「論文」です。論文には一定の書き方(型)があります。まずは「小論文の書き方の基本」を学びましょう。
塾や予備校で小論文対策の講座がある場合は、受けてみることをおすすめします。家庭教師をつけている人は、小論文指導ができる先生がいるかどうか問合せてみても良いでしょう。独学でがんばる場合は参考書を1冊用意し、要点をまとめながら一読してみてください。この時、先に紹介した「出題パターン別」に書き方がまとめられているものがあるとベストです。
また例年9月には河合塾主催の「全統論文模試」も実施されます。「論文模試」はこのタイミングが最後になりますので、ぜひ受験しましょう。小論文の専門の添削者の指導を受けられるまたとない機会です。
3.実際に書いてみる
【おすすめ時期:秋~】
書き方が理解できたら、実際に書いてみましょう。多くの参考書には、はじめの方に書きやすいテーマが設定されているはずです。趣旨や字数制限に気をつけて、まずは取り組んでみてください。
このとき、いきなり原稿用紙1マス目から書こうとしてはいけません。課題文が主張していることを整理したり、テーマにまつわる社会情勢をまとめたり、また自分自身の論を洗い出し順序立てるための「メモ」を作ることが大切です。この「メモ」の構成が、小論文の出来栄えを大きく左右するといっても過言ではありません。
良いメモが書ければ、あとは要点を文章にし、原稿用紙を埋めていくだけ。回数をかさねればきっとできるようになりますから、諦めずに頑張っていきましょう。
4.添削を受ける
書きあがった小論文は、学校や塾、予備校、家庭教師などの先生に必ず添削してもらってください。形式や問題の主旨にきちんと答えられているか、文章として正しいか、論理は成立しているか、もっと分かりやすい言い回しにできないか……、など、自分では気づけないさまざまな点をフィードバックしてくれます。
はじめのうちは一生懸命書いた小論文が真っ赤になって返ってくることに、へこたれそうになるかもしれません。大丈夫、誰でもはじめは同じです。先生のコメントを一つひとつ真摯に受け止め、改善に努めていけば1回目より2回目、2回目より3回目と、完成度の高い答案を書けるようになっていきますよ。
5.書き直し(→添削を数回)
添削してもらった小論文は、最低1回は書き直しをしましょう。せっかく改善点を教えてもらっても、放置していては身につきませんよ。どうすればもっと良い小論文が書けるかを意識しながら、もう一度取り組んでみてください。回数を重ねるほど、小論文のコツがわかってきます。
6.実践
1~5まで取り組むと、小論文の書き方が一通りは理解できたといえます。ここからはは本番に向けて実践をくりかえし、仕上げていく段階に移ってOKです。
冬から共通テスト終了までは教科の学習に集中できる環境を確保するためにも、小論文は冬前までに完成させることが望ましいでしょう。オーソドックスな問題は一通り書ける、という状態にしておくと、大学個別試験直前に復習するだけで書き方をすぐ思い出せるようになります。
現役医学部生が教える!「私が合格した小論文勉強法」
おすすめの勉強法が分かったとしても、先輩たちは実際、どんな風に勉強して合格していったのかという体験談は気になりますよね。ということで、オンライン家庭教師ピースが現役医学部生にどのように小論文対策を進めたか、聞いてみました!
● 教えてくれた人
信州大学医学部1年 Sさん
高3・10月から本番までの対策スケジュール
小論文は確かに大切な科目ですが、他教科の勉強もあることを考えると「必要以上に時間をかけすぎない」「ポイントを絞って効率よく対策する」ことが重要だと思います。
私は高校で10月頃から始まった「小論文対策講座」を利用しました。はじめはさまざまな医学部の小論文に取り組み、「医学系のテーマ」や小論文頻出テーマに慣れることに軸を置いた勉強をしました。
解いたペースは週に1本程度。学校の先生に添削していただきました。
また12月に入ると共通テスト対策に重点を置く必要があるので、小論文は一旦ストップ。そして共通テストが終わってから、国立大学前期(2次試験)の2週間前まで、感覚を取り戻すために徐々に書き始めました。この時も1週間に1本くらいのペースです。
私が小論文を使ったのは国公立大学後期(2次試験)だったので、前期終了後はペースアップし、「1日1本」書いていきました。
小論文を書くのは英語や数学を勉強するのとは別の脳を使います。目先が変わって勉強の気分転換にもなるので、休憩がてら取り組んでみるのもおすすめですよ!
小論文のチカラを高めるコツ!
小論文は自分が書いたものを添削してもらった後が大切だと思います。
私は必ず、添削が入った箇所を意識しながら次の問題を解くようにしていました。先生のアドバイスや改善点を取り入れず、ただ闇雲に書き続けても何も改善されないと思ったからです。
自分のダメなところを添削されるのはつらいときもありますが、毎回意識しながら書いてくことでどんどん速く、うまく書けるようになっていきますよ!
小論文対策おすすめ参考書
小論文の参考書はさまざま出ていますが、私がおすすめしたいのは『医学部の面接』(教学社)です。
医学部で欠かせない「面接」によく出されるテーマをまとめた本なのですが、これを読んでおくと、いざ小論文の対策を始めたときに自分の意見が出てきやすいと思います。
また医師に必要な倫理観なども学べるので、小論文においてタブーとされるものを避けることができます。
医学部を受験し、小論文を書く可能性が高い人ならば、高2の冬頃に一読しておくといいですよ!
小論文を書く際の注意点5ポイント
小論文を添削する先生に指摘されやすいポイントを5つご紹介します。読めばどれも「そんなもの」と思うかもしれませんが、どれも多い事例です。気をつければ防げるミスで失点しないためにも、きちんと押さえておきましょう。
誤字脱字はないか、文章として正しく成立しているか
誤字は非常に多い間違いです。高校生になると小中ほど頻繁に漢字テストを受けなくなることもあって、自分が間違って覚えていることに気付いていない高校生をよく見かけます。間違えやすい漢字や書いていて不安がよぎった漢字などは、必ず辞書で調べる癖をつけましょう。送り仮名のミスも頻繁にあるので、気をつけてくださいね。
また文章が日本語として正しく成立しているかという点も気を配りましょう。よくあるのが「主語と述語がねじれている(対応していない)」例です。次の文章を見てください。
▼「医者という仕事が素晴らしいと思う点は、人の人生と笑顔に深くかかわれるからです」
どこかおかしいと思いませんか?「医者という仕事が素晴らしいと思う点は」と始めているならば、文末は「~ということにあります」とすべきです。「~からです」という文末は理由や根拠を述べるときに使いますね。一生懸命書いている時ほど、こうしたミスは起きがち!書きあがったら読み返し、違和感がないかチェックしてくださいね。
ほかにも「副詞の呼応」も要注意です。詳しくは……、ぜひ調べてださいね!
字数制限は満たしているか
小論文の字数制限は、指定字数の8割以上が目安です。「400字」なら320字以上、「800字」なら640字以上ですね。「400~500字」など、幅がある場合は420字~460字程度を目安にしましょう。
字数制限を満たしていないだけで減点対象になる、場合によっては採点対象から外される恐れもあります。原稿用紙に書き始める前に、最大字数の8割に当たる行に印をしておくと分かりやすいですよ。
問にきちんと答えているか
「問に答えているか」というのは、問題が求めている答えをきちんと書けているか、ということです。「要約しなさい」という指示なのに持論を述べたり、「あなたの考えを述べなさい」という指示なのに社会情勢について延々と書いていたのでは、問に答えていることにはなりません。
小論文の問題を開いたら、まず「自分が答えないといけないのは、どんな点か」を落ち着いて考えるようにしましょう。メモの隅に書いておくと、迷ったときにすぐ確認できるので便利ですよ。
論理は一貫しているか
小論文も「論文」である以上、核となるのは「論理」の整合性です。本来説明が必要な部分を飛ばしていないか、指示語が指しているものは明確か、文脈に飛躍はないか、といった点です。
まだ論文を書くという経験が少ない高校生は、とくに3つめの「文脈の飛躍」をやってしまいがち。自分にとっては当たり前のことや、自分は正しいと思っていることを思ったままに書いてしまうと「文脈の飛躍」が起きやすいと思ってください。
例を見てみましょうか。
▼「明日は水曜なので、学校が終わったらBバス停に行かなければならない」
何のことだかわかりますか?分かりませんよね。
でもこれを書いている本人にとっては、至極当たり前のことなのです。水曜は塾に行くのでいつもとは違うバスに乗らないといけない、という文脈が隠れているだけなのです。でも採点者が隠れた文脈を知る術はありませんよね。だから「何を言っているんだ?」と思われてしまうのです。
自分にとっての当たり前ほど、丁寧に説明するよう心がけてみましょう。
医師として適性のある解答になっているか
最後は「医学部の小論文である以上、医師として適性のある解答を作る」という点です。「医者にはふさわしくない」と思われる解答は書いてはいけません。人命軽視や差別的発言、優性思想、ハラスメントと思われる内容、また特定の思想信条に偏った内容も好まれません。
この辺りは自分では気づかないうちに書いてしまっているおそれもありますから、添削を受けて指摘してもらうことが大切です。
まとめ
医学部受験は楽ではありません。国公立大なら5教科7科目、私立大でも3教科4科目の勉強を非常に高いレベルで完成させないと行けない上に、面接、そして小論文です。しかしこれらを遠し、あなたの適性が見られているのですから。
中でも小論文は苦労する受験生が多い科目ですが、「型」を知り真似ることがコツです。「型」はフレームと考えても良いですね。正しいフレームを持ち、その枠に自分の考えを入れていけばよいのです。
はじめは苦労も多い分、書けるようになったときの喜びはひとしおです。医学部合格に向けて、小論文対策もがんばってください。応援しています。
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